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福岡高等裁判所那覇支部 1968年(行コ)8号 判決

主文

原判決をつぎのとおり変更する。

琉球政府那覇税務署長が一九六五年五月一五日付をもつてした。控訴人に対する一九六二年度分所得税の総所得金額を八、〇八三ドル六〇セント、差引年税額を二、二六一ドルとする更正決定の取消しを求める訴のうち総所得金額六、六一九ドル三〇セント、差引年税額一、五二九ドルをこえて取消を求める部分および琉球政府主税局長が一九六六年一月四日付をもつてした控訴人に対する一九六二年度分所得税についての審査請求棄却決定の取消しを求める訴はいずれもこれを却下する。

控訴人の被控訴人らに対するその余の請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

控訴代理人は、

1  原判決を取消す。

2  琉球政府那覇税務署長が一九六五年五月一五日付をもつてした、控訴人に対する一九六二年度分所得税の総所得金額を八、〇八三ドル六〇セント、差引年税額を二、二六一ドルとする更正決定は、これを取消す。

3  右税務署長が一九六五年六月一二日付をもつてした、控訴人に対する一九六四年度分所得税の総所金得額を五、七四八ドル七三セント、差引年税額を一、五〇九ドル七〇セントとする更正決定は、これを取り消す。

4  右税務署長が一九六五年一〇月六日付をもつてした、控訴人に対する右一九六四年度分所得税についての再調査請求棄却決定は、これを取り消す。

5  琉球政府主税局長が一九六六年一月四日付をもつてした、控訴人に対する一九六二年度分所得税および一九六四年度分所得税についての各審査請求棄却決定は、それぞれこれを取り消す。

6  右主税局長が一九六六年七月一日付をもつてした、控訴人に対する一九六二年度分所得税についての審査決定中2の更正処分を維持した部分は、これを取り消す。

7  訴訟費用は、第一、二審とも被控訴人らの負担とする。

との判決を求め、

被控訴人ら指定代理人は、「本件控訴を棄却する。控訴費用は控訴人の負担する。」との判決を求めた。

第二、当事者の主張

一  請求の原因

1  一九六二年度分所得税の申告および被控訴人らの処分

(一) 控訴人は、一九六二年度(一九六一年四月一日から一九六二年三月三一日まで)中の総所得金額が三、八三四ドル三一セントであつたので、一九六二年五月二一日、琉球政府那覇税務署長(以下「那覇税務署長」という。)に対しその旨の確定申告をした。ところが、同税務署長は、同年度中における控訴人の所得として右申告にかかる金額のほかに四、二四九ドル二九セントの譲渡所得があつたとし、これを理由として、一九六五年五月一五日、控訴人の申立の趣旨2記載の更正決定をした。

(二) そこで、控訴人は、右更正決定について、一九六五年六月一四日、同税務署長に対し再調査請求をしたところ、右請求は、当時の沖縄所得税法(一九五二年立法第四四号、以下単に「所得税法」という。)六六条三項の規定によつて同条一項による審査請求がなされたものとみなされ、琉球政府主税局長(以下「主税局長」という。)は、一九六六年一月四日、申立の趣旨5記載の審査請求棄却決定をした。

(三) ところが、主税局長は、その後、一九六六年七月一日にいたり、那覇税務署長がした前記(一)の更正決定は控訴人の所有に属しない那覇市久茂地町二丁目七五番の土地の譲渡所得をも総所得金額計算の対象としたもので、これを除外した譲渡所得金額は二、七八四ドル九九セントであるとして、みずから前記(二)の審査請求棄却決定を取り消したうえ、更正決定中、控訴人の総所得金額のうち六、六一九ドル三〇セントをこえる部分および差引年税額のうち一、五二九ドルをこえる部分を取り消す旨、申立の趣旨6記載の審査決定をし、その通知は同月三日控訴人に到達した。

2  一九六四年度分所得税の申告および被控訴人らの処分

(一) 控訴人は、一九六四年度(一九六三年四月一日から一九六四年三月三一日まで)中の総所得金額は五、四一〇ドル八五セントであつたので、一九六四年五月二一日、那覇税務署長に対しその旨の確定申告をした。ところが、同税務署長は、同年度中における控訴人の所得として右申告にかかる金額のほかに三三七ドル八八セントの譲渡所得があつたとし、これを理由として、一九六五年六月一二日、控訴人の申立の趣旨3記載の更正決定をした。

(二) そこで、控訴人は、右更正決定について、一九六五年七月七日、那覇税務署長に対し再調査請求をしたところ、同署長は、同年一〇月六日、申立の趣旨4記載の再調査請求棄却の決定をした。

(三) ついで、控訴人は、右決定について、同年一一月七日、主税局長に対し審査請求をしたところ、同局長は一九六六年一月四日、これを理由なしとして申立の趣旨5記載の審査請求棄却決定をし、その通知は同月七日控訴入に到達した。

3  違法事由

しかしながら、控訴人に譲渡所得があるものとして課税をした被控訴人らの各処分は、つぎのとおり違法である。

(一) 控訴人は、一九六二年度(一九六一年四月一日から一九六二年三月三一日まで)および一九六四年度(一九六三年四月一日から一九六四年三月三一日まで)中にいずれも被控訴人らが認定したとおりの譲渡所得を生じた事実はない。

(二) 本件譲渡所得課税の根拠規定である所得税法一四条二項、三項および同法施行規則三六条はつぎの点において無効である。

(1)  米国民政府布告第一三号「琉球政府の設立」(一九五二年四月一日施行)三条は、「琉球政府の立法権は、琉球住民の選挙した立法院に属する。立法院は、琉球政府の行政機関および司法機関から独立して、その立法権を行なう。立法院は、一般租税、関税、分担金、消費税の賦課徴収および琉球内の他の行政団体に対する補助金の交付を含む琉球政府の権能を実施するに必要適切なすべての立法を行なうことができる。」旨規定し、一般租税の賦課徴収の権能を実施するのに必要適切な事項は立法によるものとする租税法律主義の原則を定めていた。したがつて、租税の賦課、課税標準および税率は立法院の制定する立法によらなければならなかつたというべきである。

しかるところ、所得税法八条一項八号は、「資産の譲渡による所得は、その年度中の総収入金額から当該資産の取得価額、設備費、改良費および譲渡に関する経費を控除した金額。」と規定しながら、他方において、同法一四条二項は、「第八条第一項第八号に規定する資産で評価時期において評価されたとみなされたものについては、第八条第一項第八号に規定する取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費は、当該資産の評価額と評価時期以後に支出した設備費、改良費および譲渡に関する経費の額との合計額とする。」と規定して、評価時期に評価された額と評価とみなされたものについては、実際の「取得価額」によらず「評価額」によつて計算すべきものとし、さらに、同一四条三項は、「前二項に規定する資産の評価等については、規則でこれを定める。」と規定し、同項を受けた同法施行規則三六条は、「法第一四条第三項に規定する評価については、当分の間一九五一年四月一日における時価によるものとする。」と規定していた。

ところで、このように所得税法一四条二項、三項が譲渡所得金額の計算に関し最も重要な課税物件の評価を規則に委任したことは前記布告第一三号三条所定の租税法律主義に反するものであつて、無効といわなければならず、この委任に基づき定められた同法施行規則三六条も当然無効である。

(2)  施行規則三六条は、その内容自体が不明確なものであるから無効である。すなわち、同条は、資産の評価は「時価」によるものと規定するが、税法上、「時価」なる概念は、多岐にわたり不明確なものであつて、これを具体的に算定する際には必然的に税務官庁の主観が入らざるをえない。このように法規の内容自体が不明確なものは、法的安定性を欠き、租税法律主義の精神にももとるものであるから無効といわなければならない。

(3)  施行規則三六条は、所得税法一四条三項の委任の範囲を逸脱するもので無効である。けだし、右一四条三項は、資産の「評価額」について規則に委任したにかかわらず、右規則によつて定められたのは「評価額」ではなく「時価」であるが、これは課税評準の基礎となる重要な事項を委任の趣旨を逸脱して定めたことに帰するからである。

(三) 施行規則三六条は、「当分の間云々」と規定しているから明らかに限時法であるというほかはないが、本件処分当時までにはその制定時から一四、五年を経過しており、すでにその効力を失つていたものというべきである。

(四) 所得税法一四条二項は、「評価時期において評価されたとみなされたもの」と規定しているから、譲渡所得の対象となる資産は、右の時期に評価された物件に限られるものと解すべきである。しかるに、本件課税当時、評価されたものとみなす立法は制定されていなかつた。したがつて、本件各土地を課税の対象とした処分は違法である。

(五) 被控訴人らが、一九五一年四月一日以前に取得した資産の譲渡所得に対して課税を始めたのは、一九六二年度以降のことであり、一九六一年度まではその譲渡所得に対しては課税をしていなかつた。これは、租税負担の公平の原則に反するものであるから、被控訴人らのした本件課税処分はすべて違法である。

(六) 被控訴人らがした本件譲渡所得についての所得金額の計算は、すべて同人らの恣意によつてなされたものである。すなわち、被控訴人らが算定した本件各土地の一九五一年四月一日現在における時価は近隣地の評価時期における売買実例を参考にして定めたというのであるが、そのような実例はない。かりにあつたとしても、近隣地の時価にすぎず、本件土地の時価ではない。したがつて、かかる算定法は被控訴人らの恣意によるものであり、本件譲渡所得金額の計算およびその税額の算定は、すべて違法である。

(七) 一九五一年四月一日以前に取得した資産について所得税法の譲渡所得に関する一般課税規定を適用して課税することは、税法における禁反言の原則もしくは信義誠実の原則にも反し、違法である。

4  以上のとおりであるから、一九六二年度所得税の賦課につき琉球政府那覇税務署長がした前記1(一)の更正決定、同主税局長がした1(二)の審査請求棄却決定、1(三)の審査決定中、1(一)の更正決定を維持した部分はいずれも違法であり、また、一九六四年度所得税の賦課につき琉球政府那覇税務署長がした前記2(一)の更正決定および2(二)の再調査請求棄却決定、同主税局長がした2(三)の審査請求棄却決定はいずれも違法であるから、右各処分の取消しを求めるものである。

なお、控訴人は、主税局長が一九六六年七月一日付をもつてした審査決定についてもその全部につき違法を主張して取消しを求めるもののごとくであるが、右決定は、前記のように主税局長がさきにした1(二)の審査請求棄却決定を取り消し、また1(一)の更正処分の一部を取り消して残余を維持するものであり、控訴人の真意は、右取消にかかる部分についても、本訴において取消を求める趣旨ではなく、右審査決定中、更正処分を維持した限度すなわち一部請求棄却の処分の限度でその取消を求める趣旨と解すべきである。

二  被控訴人らの答弁および主張

1  控訴人主張の請求原因事実中、控訴入が一九六二年度および一九六四年度の各所得税に関し、その主張のとおりの確定申告をし、那覇税務署長および主税局長がそれぞれ控訴人主張のとおりの処分をしたことは認める。

2  一九六二年度分所得税の賦課について

控訴人が提出した確定申告書によれば、同年度中の所得は給与所得のみとなつているが、那覇税務署長が調査したところ、控訴人は同年度中に、その所有に係る土地を売却したことが判明した。そこで、同税務署長は、控訴人に右土地売却によつて譲渡所得が生じたものと認め、修正申告書の提出を促したが、控訴人がこれに応じなかつたので、所得税法六一条一項により、みずから控訴人の右譲渡所得金額を四、二四九ドル二九セントと認定し、これを控訴人の前記申告金額に加算して、控訴人主張の更正決定をした。ところが、右更正決定は後日、控訴人主張のとおり主税局長の審査決定によつてその一部が取り消された。

右審査決定における譲渡所得二、七八四ドル九九セントの計算の基礎および方法は、つぎのとおりである。

(一) 収入金額 七、五六七ドル

売買当事者間に作成された売買契約書および買受人の申述に基づいて、控訴人所有の那覇市字安里神無良川一七六番畑三二九坪が坪当り二三ドルで売買された事実を認定し、その売買価額を七、五六七ドルと算出した。

(二) 経費 一、六九七ドル二セント

(1)  取得価額 一、六四五ドル

右土地は、控訴人が一九五一年四月一日以前に取得した土地であるので、その取得価額は、所得税法一四条二項、三項および同法施行規則三六条に従い、同日現在における時価によることとなる。そこで、その近隣地の同時期における売買の実例を参考にし、て、その時価は坪当り五ドルが相当であると認められたので、その取得価額を一、六四五ドルと算出した。

(2)  譲渡経費 五二ドル二セント

登録税七四ドル四セント、司法書士手数料四ドル四〇セント、不動産取得税二四ドル六八セント、売渡証印紙代五〇セント、委任状印紙代五セント、印鑑証明手数料一六セント、登記簿閲覧手数料二〇セント、以上合計一〇四ドル三セントを要したものと認め、これを売買当事者双方で折半して負担したものとして、控訴人の支出した譲渡経費を五二ドル二セントと算出した。

(三) 総所得金額

前記(一)の収入金額から(二)の経費を差引いた五、八六九ドル九八セントが譲渡利益であり、この金額から所得税法八条一項所定の三〇〇ドルを控除した金額の一〇分の五にあたる二、七八四ドル九九セントを控訴人の譲渡所得と算定した。

これを確定申告に係る給与所得三、八三四ドル一三セントに加算した六、六一九ドル三〇セントが総所得金額である。

3  一九六四年度分所得税の賦課について

控訴人が提出した確定申告書によれば、同年度中の所得は給与所得と不動産所得のみとなつているが、那覇税務署長が調査したところ、控訴人は、同年度中に、その所有に係る那覇市若狭町二丁目六五番の一宅地三九坪二合四勺を他に売却したことが判明した。そこで、同署長は、控訴人に右土地売却によつて譲渡所得が生じたものと認め、控訴人に対し修正申告書の提出を促したが、これに応じなかつたので、同署長は前記規定によりみずから控訴人の総所得金額を五、七四八ドル七三セント、これに対する税額を一、五〇九ドル七〇セントとする旨の更正決定をした。被控訴人らの各決定における右譲渡所得の計算の基礎ならびに方法は、つぎのとおりである。

(一) 収入金額 一、九六二ドル

控訴人は、那覇税務署長の調査に際し、土地売却に関する契約書等の提出を拒み、口頭で、右土地の譲渡価額は坪当り三一ドル三九セントで、総額一、二三二ドルである、と申述し、買受人もまた同様に述べたが、当時の近隣地の売買実例などから、その時価は坪当り五〇ドルが相当と認められるにかかわらず、控訴人の主張する右取引価額が著しく低いので、同署長は当時の所得税法五条二項および同法施行規則一条(一九六六年規則第一三号による改正前)により、控訴人の右取引価額を否認し、坪当り五〇ドルで譲渡があつたものとみなして、その売買価額を一、九六二ドルと算出した。

(二) 経費 九八六ドル二四セント

(1)  取得価額 九四一ドル七六セント

右土地は控訴人が一九五一年四月一日以前に取得した土地であるので、その取得価額の計算にあたつては、前同様、同時期における近隣地の売買実例を参考にし、かつ、同土地が那覇市の区画整理地区内にあるため区画整理による三割の減歩を考慮して、坪当り二四ドルと認定し、その取得価額を九四一ドル七六セントと算出した。

(2)  譲渡経費 四四ドル四八セント

登録税三六ドル九六セント、司法書士手数料三ドル七七セント、不動産取得税一二ドル三二セント、売渡証印紙代五〇セント、委任状印紙代五セント、印鑑証明手数料一六セント、登記簿閲覧手数料二〇セント、測量費三五ドル、以上合計八八ドル九六セントを要したものと認め、これを売買当事者双方で折半して負担したものとして、控訴人の支出した譲渡経費を四四ドル四八セントと算出した。

(三) 総所得金額

前記(一)の収入金額から(二)の経費を差引いた九七五ドル七六セントが譲渡利益であり、この金額から前同様三〇〇ドルを控除した六七五ドル七六セントの一〇分の五にあたる三三七ドル八八セントを控訴人の譲渡所得と算定した。

これを確定申告による給与所得および不動産所得の合計五、四一〇ドル八五セントに加算すると、総所得金額は五、七四八ドル七三セントである。

4  所得税法一四条二項の「評価時期において評価されたとみなされたもの」については、同条三項によつて、規則でこれを定めることになり、同法施行規則三六条がこれを定めているのであつて、控訴人が一九五一年四月一日以前に取得した本件各土地も同条によつて評価がなされたのであるから控訴人主張のような違法はない。

しかして、譲渡所得について、取得価格計算の特例として、右一四条二項および施行規則三六条が設けられたのは、戦後、貨幣価値が急落したこと、戦争により土地などの公簿が滅失し、一九五一年四月一日に至り漸く土地所有権の認定がなされたこと等の事情を考慮し、右の時期以前に資産を取得した者がその後にこれを譲渡する場合に生ずる高い名目的利益が課税の対象とされる不利益から納税義務者を保護するためのものであつて、何らの不合理もない。

5  以上のとおりであつて、本件各課税処分は正当であるから、本訴請求はいずれも理由がない。

三  被控訴人らの主張に対する控訴人の答弁

被控訴人ら主張の事実中、控訴人が、本件各土地を一九五一年四月一日以前に取得し、これをそれぞれ被控訴人ら主張のとおりの契約内容(ただし、一九六四年度売却の那覇市若狭町二丁目六五番の一の土地についての売買価額の点を除く。)で売却したこと、一九六二年度売却の土地については被控訴人ら主張のとおり譲渡経費を支出したことおよび右若狭町二丁目六五番の一の土地が那覇市の区画整理によつて三割の減歩となつたことは認めるが、その余の事実は争う。

第三、証拠関係<省略>

理由

第一、本件の一九六二年度および一九六四年度各所得税について、控訴人のした確定申告から被控訴人ら(被承継人である旧琉球政府那覇税務署長、同主税局長)のした各処分に至るまでの経緯および各処分の内容については、原判決理由第一(1) のうち、原判決一三枚目表末行から裏三行目までを「前記更正決定につき、控訴人の総所得金額のうち六、六一九ドル三〇セントをこえる部分および所得税額のうち一、五二九ドルをこえる部分をそれぞれ取り消す旨の決定をし、右通知は同月三日、控訴人に到達した」と改めるほか、右第一の(1) 、(2) に記載されたところと同一であるから、ここにこれを引用する。

第二、よつて、被控訴人らのした各決定の当否について順次判断する。

一  控訴人の違法事由の主張(二)(1) ないし(3) について

控訴人は、被控訴人らが譲渡所得に対する各賦課処分の根拠規定とした所得税法一四条二項、三項および同法施行規則三六条は、いずれも米国民政府布告第一三号「琉球政府の設立」三条所定の租税法律主義の原則に反するもので無効であるとして、種々の理由を述べる。

右布告第一三号の三条が各般にわたる立法権のうち、特に租税の賦課徴収権、他の行政団体に対する補助金の交付を立法権の重要な内容として挙示していることは、立法権のなかで、とりわけ租税の賦課徴収の権限を重視していることを窺わしめるものであるが、同条は、立法院の権能の面から立言されたものであるから、その条文の文言からは、必ずしも租税の賦課徴収に関する事項、ことに課税要件が必ず立法自体によつて定められるべきことまでをも規定したものとは、しかく明確には断定しがたい。しかしながら、同条が米合衆国憲法一条八節一項および一七項を合わせた規定の体裁をとつていること、右のような租税の賦課徴収に関する事項、ことに課税要件が法律(立法)によつて定められるべきことは、規定の有無ないし規定の仕方のいかんにかかわらず、近代国家における当然の原則であつて、この原則に反し、法律以外の規則等に課税の具体的諸要件を委任することは許されないものと解すべきことに徴するときは、復帰前の沖縄の税制についてもなお、租税法律主義の原則が支配していたものと解するのが相当である。

しかして、所得税法八条一項八号が資産の譲渡所得(山林の伐採もしくは譲渡による所得および営利を目的とする継続的行為によつて生じた所得を除く。)についての所得金額の計算方法の原則を定め、同法一四条二項が、例外として、一九五一年四月一日以前に取得した資産については、総収入金額から控除されるべき取得価額、必要経費等を実際の取得価額等によらず、一九五一年四月一日を評価時期、すなわち評価のための基準日とする右資産の評価額と評価時期以後に支出した設備費、改良費及び譲渡に関する経費の額との合計額によるべき旨を、また、同条三項が右資産の評価等については規則で定める旨をそれぞれ定め、これに基づいて同法施行規則三六条が、右の評価については、当分の間、一九五一年四月一日における時価によるものとする旨を定めていることもまた控訴人主張のとおりである。

2 そこで、まず、右一四条二項、三項および同法施行規則三六条の各規定が設けられた趣旨について検討するに、その趣旨は、戦後における著しい貨幣価値の低下によつて資産の名目価格が著しく騰貴したため、戦前または戦後の混乱時期に資産を取得した者がのちに該資産を譲渡する場合に、取得価額が著しく低いことから譲渡価額との差が著しく、したがつて高い名目的利益を生じ、これが課税の対象とされるときは、納税者に著しく不利益になるところから、かかる外部的要因に起因する不合理な結果を是正し、税負担の適正を期するために、戦後、土地所有権証明書が交付された一九五一年四月一日を基準日として、それ以前に取得した資産については課税上の特例を設けたものと解すべきである。このような立法上の特例措置は、戦後間もなくから、本土の所得税法においてもとられたところであつて、その趣旨もまた、沖縄の所得税法について右に述べたところと異なるものではない。

3 ところで、租税法律主義のもとにおいては、課税物件、課税標準、税率、納税義務者等の課税要件の全部にわたり、その細目にいたるまでこれを法律で定めておくことは望ましいことではあるが、公平な課税目的を達成するため合理的な理由がある場合には、右の原則を逸脱しない範囲で、その細目を施行規則等に委任することもまた許されるものと解すべきである。しかるところ、所得税法一四条によつて同法施行規則に委任された事項は、前示特例によつて一九五一年四月一日以前に取得された資産につき、総収入金額から控除されるべき取得価額をいかに評価すべきかの点に限定されているのであつて、評価をなすべき時期、その目的、趣旨はすべて法律自体によつて明らかにされているのであるから、おのずから施行規則によつて定められるべき規定の内容もまた明確にされているというべく、右の点に限定された一四条三項による前記委任はいまだ租税法律主義の原則に違反するというほどのものではないものというべく、施行規則に定められた内容が立法による委任の範囲をこえるような場合に、その効力を問題にすれば足りる程度のものと解すべきである。しかして、施行規則三六条が、「法第一四条第三項に規定する評価については、当分の間一九五一年四月一日における時価によるものとする。」と定めていることは所論のとおりであるところ、右にいう時価とは当該時期において一般にその物件が取引される実際の価格を指すものであつて、所論のように多岐的、不明確な概念ではなく、しかも、時価によることは、適正な取引形態を前提とするときは、資産の譲渡により生ずべき実質的利益を算定するにあたつて最も適切な手段であつて、前示の所得税法の趣旨にも合致する、むしろ立法により予定された規定内容と解すべきものである。したがつて、控訴人の違法事由の主張(二)の(1) ないし(3) はすべて採用することができない。

二  控訴人の違法事由の主張(三)について

控訴人は、施行規則三六条が「当分の間云々」と定めているから、右規則の制定は、施行規則の制定後一〇余年を経過した本件各処分の当時には失効していたものである旨主張する。

所論のように同条に、「当分の間」との限定がある以上、右の規定は将来廃止または変更されることが予想されたものとして立法されたものであることはこれを認めなければならない。しかしながら、このように、立法の体裁において「当分の間」と定められている場合であつても、他の法規によつて現実に廃止変更の措置がとられないかぎり、なお法規としての効力を失うことがないものと解すべきであるから(最高裁判所昭和二四年四月六日大法廷判決、刑集三巻四号四五六頁参照)、右施行規則の規定もまた本件各処分時にはなお効力を有していたというべきである。したがつて、右の主張もまた採用することができない。

三  控訴人の違法事由の主張(四)について

控訴人は、所得税法一四条二項の文言から、譲渡所得の課税の対象となる資産は、一九五一年四月一日(評価時期)において評価されたとみなされたものに限られるところ、本件各土地は右の評価をされたこともなく、また評価されたとみなされる法律上の根拠もないから、その譲渡所得を課税の対象としたのは違法であると主張する。

同条同項の規定がその文言の上で、「評価時期において評価されたみなされたもの」について課税の特例を設けていることは所論のとおりであり、また、沖縄における復帰前の法令をみても、一定の資産につき一九五一年四月一日現在の資産の価格を評価し、または評価されたものとみなすものとする特別の規定が見当たらないことも所論のとおりである。しかしながら、それだからといつて、所論のみなし規定がないかぎり、本件各土地が課税の対象とならないというのは、控訴人の独断であつて(かえつて、そのような特別の措置がとられなければ、原則に戻つて本来の取得価額によつて計算されると解する方が論理的である。)、右の点は、つぎのように解すのが相当である。

沖縄の所得税法は、日本本土の所得税法に範をとつて立法されたものであることがその規定の体裁によつて明らかであり、一九五一年四月一日前に取得した資産の譲渡所得に対する課税上の特例措置についてもまた同様の立法例が本土の所得税法に存したことはさきに一言したところである。ところで、本土法における立法経過を本件のように土地の譲渡に関する場合についてみてみると、当初は、昭和二一年三月三日(財産税調査時期)前に取得された土地については、財産税法(昭和二一年法律第五二号)の定めによつて計算した価額に一定の倍数を乗じて得た額を取得価額とする旨を定めていた。しかるに、その後、資産再評価法(昭和二五年法第一一〇号)が制定されたところ、同法は、個人所有の土地についてはこれを再評価(任意評価)の対象とはしなかつたが、ただ、土地について譲渡等が行なわれたときは、昭和二一年三月三日(財産税調査時期)前に取得したものについては同様に財産税評価額に一定の倍数を乗じて得た額を再評価額とみなし、また、同時期後に取得したものについてはその取得価額を基準として取得時期に応じて定められた一定の倍数を乗じて得た額によつて再評価が行なわれたものとみなす(法定再評価)、ものとする規定を設け、譲渡所得の所得金額の計算においてはこれを取得価額として算定するものとされ、その後、変遷を得て現在では、昭和二七年一二月三一日以前に取得した資産について、昭和二八年一月一日における価額として政令で定めるところにより計算した金額(相続税の評価額)をもつて取得価額とするものとしているのである。

思うに、本土の資産再評価法においても個人の有する土地その他減価償却資産以外の資産については任意の再評価が行なわれることがなく、資産の譲渡等が行なわれたときに資産再評価法の規定により再評価が行なわれたものとみなされるものとされていたことは、右にみたとおりであるが(したがつて、評価計算は譲渡等がなされたとき始めて行なわれる。)、沖縄においては資産評価法の目的の一つである減価償却の適正化の措置がとられなかつたところから、右の立法がなされず、したがつて、法定再評価に関する前記みなし規定も立法化されないまま、所得税法には、本土法令を参考とした条文の体裁を採用したため、所得税法の規定のうえでのみ評価(再評価)されたものと擬制する規定が設けられるに至つたものと解される。したがつて、所得税法一四条二項にいう「評価されたものとみなされた云々」というのは、むしろ本土法令の文言を安易に取り入れたことによる立法上の表現の過誤によるものと解すべきであつて、同条二項の法意からするならば、「評価時期において評価されたとみなされたもの」とあるのは、評価時期以前、すなわち同条一項の定義づけによれば、一九五一年四月一日以前に取得したもの、との趣旨であり、右二項は、かかるものについては、当該資産の評価時期における評価額(この評価額が本土法にいわゆる再評価額に相当する。)と評価時期以後に支出した設備費、改良費及び譲渡に関する経費の合計額を総収入金額から控除すべき取得価額、設備費、改良費および譲渡に関する経費とし、同条三項が右評価額の算定を施行規則に委ねたものと解するのが相当である。したがつて、あらかじめ評価されたことがなく、評価されたものとみなす根拠規定もないから、課税の対象とならない旨の控訴人の主張は理由がない。

四  控訴人の違法事由の主張(五)について

一九五一年四月一日以前に取得した資産を一九六一年以前に譲渡したことによる所得に対し、被控訴人らが課税をしないことがあつたとしても、そのことによつて、控訴人に対する本件各処分が所論租税負担公平の原則に反して違法となるものと解すべきいわれはないから、控訴人の主張は理由がない。

五  控訴人の違法事由の主張(六)について

本件各土地についてはいずれも近隣地の売買実例があり、被控訴人ら税務官庁が控訴人の各売却土地の時価を算定するに当たりこれを参考としたものであることは、のちに認定するところにより明らかである。そして、一定の土地の時価を算定するに当つて、近隣地の売却事例を参考として算出することは土地の時価が不明な場合に通常用いられる方法であつて相当な手段というべきであり、このような方法がとられたことによりただちに税務官庁による時価の算定が恣意の方法によつたことになるものではないから、控訴人の主張は採用することができない。

六  控訴人の違法事由の主張(七)について

控訴人は、譲渡所得に関する所得税法の一般課税規定を一九五一年四月一日以前に取得した資産についても適用することは、税法における禁反言の原則もしくは信義誠実の原則に反すると主張するが、いかなる理由によつても本件課税処分が所論の諸原則に反するものと解すべきいわれはないから、右主張は採用しがたい。

七、所得金額の計算および被控訴人らの処分の当否

本件における一九六二年度および一九六四年度の各所得金額の計算および被控訴人らのした処分の当否については、原判決理由中一七枚目裏九行目の「前記のとおり」以下から一八枚目表六行目までを、「琉球政府主税局長が控訴人の総収入金額に右譲渡所得を加算してこれを六、六一九ドル三〇セント、これに対する源泉徴収税額を控除した税額を一、五二九ドルと算定し、前説示のようにさきにした審査請求棄却決定を取り消したうえ、那覇税務署長のした更正決定のうち右各金額をこえる部分を取り消す旨の決定をしたことは正当である、といわなければならない。」と、同枚目一〇行目に「つぎは」とあるのを「つぎに」と、同末行に「所存」とあるのを「所在」と、同一九枚目裏一行目から同二行目にかけて「原告はこれを明らかに争わず」とあるのを「控訴人は、右金額以上の支出がなされたことを積極的に主張、立証しないから、弁論の全趣旨に徴し多くとも右経費の支出は被控訴人ら主張の限度にとどまつたものと認むべく」と改め、同一八枚目裏一〇行目の「相当である。」につづけて、「してみれば、弁論の全趣旨によつて右土地の現実の譲渡価額であると認められる坪当たり三一ドル三九セント、総額一、二三二ドルは、右坪当たり価額五〇ドルと対比して当時の所得税法施行規則一条所定の三分の二の額に満たないことが明らかであり、同法五条二項所定の著しい低い価額の対価で資産の譲渡があつた場合にあたるものというべきであるから、那覇税務署長において坪当たり五〇ドルで譲渡があつたものとみなしてその売買価額を一、九六二ドルと算定したのは相当であるといわなければならない。」と付加するほか、原判決一六枚目表六行目から同二〇枚目表七行目までに説示したところと同一であるから、ここにこれを引用する。

八  結論

控訴人は、一九六二年度分の所得税に関して、那覇税務署長のした更正処分についてその全部の取消しを求め、また、主税局長のした当初の審査請求棄却決定についてもその取消を求める。しかしながら、主税局長は、一九六六年七月一日、みずから右審査請求棄却決定を取り消すとともに、あらためて右更正処分のうち、総所得金額六、六一九ドル三〇セントをこえる部分、差引年税額一、五二九ドルをこえる部分を取り消しその余の部分の審査請求を棄却する決定をしたことは、さきに説示したところであるから、右取消しの限度では、さらに本訴においてこれらの処分の取消を求める利益を有しないものといわなければならない。したがつて、本訴のうち、一九六二年度分所得税につき、那覇税務署長がした右更正決定中総所得金額六、六一九ドル三〇セント、差引年税額一、五二九ドルをこえて取消しを求める訴部分および主税局長がした右審査請求棄却決定の取消しを求める訴は、いずれも訴の利益を欠く不適法なものとして却下すべきである。

つぎに、本訴請求中その余の部分については、被控訴人らのした処分が正当であつて、控訴人の主張の理由がないことが前説示によつて明らかであるから、すべて棄却を免れない。してみれば、原判決は、右の訴を却下すべき部分について本案判決をなした点は失当であるからこれを取り消すべきであるが、その余の請求部分を棄却した点は正当であるから、該部分に対する本件控訴はいずれも理由がない。

よつて、右趣旨に従つて原判決を変更することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法九六条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(判事 吉井直昭、宮城安理、仲本正真)

【参考】一審判決(那覇地裁一九六六年(行)第三号、一九六八年一月一七日判決)

主文

原告の被告等に対する各請求はいずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立)

原告訴訟代理人は、

一 被告那覇税務署長が、一九六五年五月一五日原告に対する一九六二年度分所得税の総所得金額を、金八、〇八三ドル六〇セント、所得税額を金二、二六一ドルとする更正決定はこれを取消す。

二 被告那覇税務所長が、一九六五年六月一二日原告に対する一九六四年度分所得税の総所得金額を金五、七四八ドル七三セント、所得税額を金一、五〇九ドル七〇セントとする更正決定はこれを取消す。

三 被告那覇税務署長が、一九六五年一〇月六日になした右一九六四年度分所得税の再調査請求棄却決定はこれを取消す。

四 被告主税局長が、一九六六年一月四日になした右一九六二年度分所得税の審査請求棄却決定はこれを取消す。

五 被告主税局長が、一九六六年七月一日になした右一九六二年度分所得税の審査決定はこれを取消す。

六 訴訟費用は被告等の負担とする。

との判決を求めた。

被告等指定代理人は主文同旨の判決を求めた。

(原告の主張)

第一、一九六二年度分所得税について

(1)  原告は、その一九六二年度中の総所得金額は金三、八三四ドル三一セントであるので、一九六二年五月、被告那覇税務署長に対し、その旨の申告をなした。ところが同被告は、一九六五年五月一五日原告の右総所得金額を金八、〇八三ドル六〇セント、これに対する所得税額を金二、二六一ドルとする旨更正決定した。

その理由は、原告が同年中に金四、二四九ドル二九セントの譲渡所得があつたというのである。

(2)  そこで、原告は一九六五年六月一四日同被告に対し、右更正決定に対する再調査請求をなしたがこれは所謂「みなし審査請求」に移行され、一九六六年一月四日被告主税局長は、右審査請求を理由ないものとして棄却する旨を決定した。

(3)  ところが、同被告はその後被告那覇税務署長のなした右更正決定中、譲渡所得金額計算の対象となつた那覇市久茂地町二丁目七五番の土地は原告の所有に属しないことを理由として、一九六六年七月一日前記審査請求棄却決定及び更正決定を取消したうえ、自ら原告の総所得金額を金六、六一九ドル三〇セント、これに対する税額を金二、三九九ドル五〇セントとする旨決定し、右通知は同月三日原告に到達した。

(4)  しかしながら、原告は本年度中何ら譲渡所得は生じていないのであるから被告那覇税務署長がなした前記(1) の更正決定は違法であり、これを正当とする被告主税局長の前記(2) の審査請求棄却決定は勿論、その後同被告がなした前記(3) の審査決定はいずれも違法である。

第二、一九六四年度分所得税について

(1)  原告は、その一九六四年度中の総所得金額は金、五、四一〇ドル八五セントであるので、一九六四年五月被告那覇税務署長に対し、その旨の申告をなした。ところが同被告は、一九六五年六月一二日原告の右総所得金額を金五七四八ドル七三セント、これに対する所得税額を金一、五〇九ドル七〇セントとする旨更正決定した。

その理由は、原告が同年中に金三三七ドル八八セントの譲渡所得があつたというのである。

(2)  そこで原告は、一九六五年七月七日同被告に対し、右更正決定に対する再調査請求をしたところ、同被告は一九六五年一〇月六日右再調査請求を棄却する旨決定した。

(3)  これに対して原告は、一九六五年一一月七日被告主税局長に審査請求をなしたところ、同被告も一九六六年一月四日右請求を理由ないものとして、これを棄却する旨決定し、その通知は同月七日原告に到達した。

(4)  原告は、本年度中も譲渡所得は皆無であるから被告那覇税務署長がなした前記(1) の更正決定は勿論、これを正当として原告の再調査請求及び審査請求を棄却した被告等の前記(2) 、(3) の各決定はすべて違法である。

よつて、原告は右の各処分の取消しを求める。

(被告等の答弁)

原告主張事実中、原告が一九六二年度及び一九六四年度分の各所得税に関しその主張のとおり確定申告をなしたところ、被告等はその主張どおりの各処分をなしたことを認める。

(被告等の主張)

第一、一九六二度分所得税について

原告が提出した確定申告書によれば、その同年度中の所得は給与所得のみとなつているが、被告那覇税務署長が調査したところ、原告は同年度中に、その所有に係る土地を他に売却した事実が判明した。

そこで同被告は、原告は右土地売却によつて譲渡所得が発生したものと認め、原告に修正申告書の提出をうながしたがこれに応じなかつたので、同被原は所得税法第六一条第一項により、自ら原告の右譲渡所得金額を金四、二九九ドル二九セントと認定し、これを原告の前記申告金額に加算して、その総所得金額を金八、〇八三ドル六〇セント、これに対する税額を金二、二六一ドルとする旨更正決定した。

ところが、右更正決定は後日、原告主張のとおり被告主税局長において取消され同被告によつて原告主張のように審査決定されたものである。

その計算方法はつぎのとおりである。

(1)  収入金額金七、五六七ドル

当事者間に取交された売買契約書及び買受人の申述にもとづいて、原告所有の那覇市字安里神無良川一七六番畑三二九坪は、坪当り金二三ドルで売却された事実を認定し、これに総坪数を乗じて金七、五六七ドルと算出した。

(2)  経費 金一、六九七ドル二セント

(A) 取得価額 金一、六四五ドル

この土地は、原告が一九五一年四月一日(以下単に「評価時期」と呼ぶときは同日を意味する。)以前に取得した土地であるので、その取得価額は所得税法第一四条第二項、第三項及び同法施行規則第三六条にもとずき、評価時期における「時価」によつて計算することとなつている。この場合の「時価」とは、通常財産の交換価値、即ち所有者が使用、収益する状態において存する価値を客観的に評量した価額をいうので、その算定は、近隣地の評価時期における売買実例を参考にして、坪当り金五ドルを相当と認め、これを総坪数三二九坪を乗じて、金一、六四五ドルと算出した。

(B) 譲渡経費 金五二ドル二セント

登録税金七四ドル四セント、司法書士手数料金四ドル四〇セント、不動産取得税金二四ドル六八セント、売渡証印紙代金五〇セント、委任状印紙代金五セント、印鑑証明料金一六セント、登記簿閲料金二〇セント、合計金一〇四ドル三セントを要したものと認め、これを当事者双方で折半したものとして、これを二分し、結局原告の譲渡経費は金五二ドル二セントを相当として算出した。

(3)  課税標準の計算 金二、七八四ドル九九セント

前記(1) の収入金額から(2) の経費を差引いた金五、八六九ドル九八セント(譲渡利益)より、所得税法第八条第一項所定の金三〇〇ドルを控除した金五、五六九ドル九八セントの十分の五に相当する金額金二、七八四ドル九九セントを原告の譲渡所得金額として算出した。

第二、一九六四年度分所得税について

原告が提出した確定申告書によれば、その同年度中の所得は、給与所得と不動産所得(不動産の賃貸料からなる所得)のみとなつているが、被告那覇税務署長が調査したところ、原告は同年度中に、その所有に係る那覇市若狭町二丁目六五番の一宅地三九坪二合四勺を他に売却した事実が判明した。そこで同被告は、原告は右土地売却によつて譲渡所得が発生したものと認め、原告に修正申告書の提出をうながしたがこれに応じなかつたので、同被告は所得税法第六一条第一項により自ら原告の総所得金額を金五、七四八ドル七三セント、これに対する税額を金一、五〇九ドル七〇セントとする旨更正決定した。

その計算方法はつぎのとおりである。

(1)  収入金額 金一、九六二ドル

原告は、被告那覇税務署長の調査に際し、譲渡契約書その他の証憑書類の提出を拒み、口頭で右土地の譲渡価額は坪当り金三一ドル三九セントで、総額金一、二三二ドルである旨申述し、買受人も同様に述べたが、一九六三年一二月になされた近隣地の売買実例等から相当と認められる坪当り金五〇ドルの時価に比して原告の右取引価額は著しく低廉であるので、同被告は所得税法第五条第二項及び同法施行規則第一の三条に則り原告の右取引価額を否認し、自ら坪当り金五〇ドルで譲渡があつたものとみなして、これに総坪数を乗じて金一、九六二ドルと算出した。

(2)  経費 金九八六ドル一五セント

(A) 取得価額 金九四一ドル七六セント

右土地は原告が一九五一年四月一日以前に取得した土地であるので、その取得価額の計算は、前記同様近隣地の売買実例を参考にし、かつ同土地が那覇市の区画整理地区内にあるため区画整理による三割の減歩を考慮に入れて坪当り金二四ドルと認定し、これに総坪数三九坪二合四勺を乗じて金九四一ドル七六セントと算出した。

(B) 譲渡経費 金四四ドル四八セント

登録税三六ドル九六セント、司法書士手数料三ドル七七セント、不動産取得税一二ドル三二セント、売渡証印紙代五〇セント、委任状印紙代五セント、印鑑証明料一六セント、登記範閲覧料二〇セント、測量費三五ドル、合計金八八ドル九六セントを要したものと認め、これを当事者双方で折半したものとしてこれを二分し、結局原告の譲渡経費は金四四ドル四八セントを相当として算出した。

(3)  課税標準の計算 金三三七ドル八八セント

前記(1) の収入金額から(2) の経費を差引いた金九七五ドル七六セント(譲渡利益)より、所得税法第八条第一項所定の金三〇〇ドルを控除した金七五ドル七六セントの十分の五に相当する金額金三三七ドル八八セントを原告の譲渡所得金額として算出した。

(被告等の主張に対する原告の答弁)

本件各土地は、原告が一九五一年四月一日以前に取得したものであること、原告がこれらの土地を被告等主張のとおり(ただし那覇市若狭町二丁目六五番の一宅地三九坪二合四勺の売買価額の点を除く。)売却したこと及び前記那覇市若狭町二丁目六五番の一の宅地が那覇市の区画整理によつて三割減歩されたことを認め、その余の被告等の主張事実を争う。

(被告等の主張に対する原告の反論)

第一、所得税法第一四条第二項、第三項及び同法施行規則第三六条は無効である。

(1)  布告第一三号「琉球政府の設立」第三条によれば、「琉球政府の立法権は、琉球住民の選挙した立法院に属する立法院は、琉球政府の行政機関及び司法機関から独立して、その立法権を行う。立法院は、一般租税、関税、分担金、消費税の賦課徴収及び琉球内の他の行政団体に対する補助金の交付を含む琉球政府の権能を実施するに必要適切なすべての立法を行うことができる。」旨を規定し、一般租税の賦課徴収の権能を実施するのに必要適切な事項は立法によるべきであるとの租税法律主義の原則を明定している。従つて租税の賦課のみならず賦課に必要な課税標準及び税率は必ず立法院の制定する立法によらなければならない。

ところで所得税法第八条第一項第八号は「資産の譲渡に因る所得は、その年度中の総収入金額から当該資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除した金額。」と規定しながら、同法第一四条第二項は、「第八条第一項第八号に規定する資産で評価時期において評価されたとみなされたものについては、第八条第一項第八号に規定する取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費は、当該資産の評価額と評価時期以後に支出した設備費、改良費及び譲渡に関する経費の額との合算額とする。」旨規定し、評価時期に評価されたとみなされたものについては、同法第八条第一項第八号に規定する「取得価額」によらず「評価額」によつて計算すべき旨を定め、更に同条第三項は、「前二項に規定する資産の評価等については、規則でこれを定める。」と規定し、これを規則に委任し、同法施行規則第三六条は、「法第一四条第三項に規定する評価については、当分の間一九五一年四月一日における時価によるものとする。」と規定している。

従つて、所得税法第一四条第二項、第三項は、租税の賦課に必要な課税標準の計算に関し、最も重要である評価方法について、これを規則に委任したものであるから前記布告第一三号「琉球政府の設立」第三条の租税法律主義に反する無効の規定であり、この委任を受けて定められた同法施行規則第三六条も当然無効といわなければならない。

(2)  また、前記施行規則第三六条はその内容自体が租税法律主義に反するので無効である。すなわち税法上「時価」なる概念は多岐に亘る不確定なものでどのようにも解しうるし、なおこれを具体的に算定する場合には必然的に税務官庁の主観が支配する。このように法規の内容自体が不明確なものは法的安定性を欠き、租税法律主義の精神にも悖るものであるから無効といわなければならない。

(3)  かりにそうでないとしても、右条項は所得税法第一四条第三項の委任の趣旨を逸脱した無効の規定である。すなわち所得税法第一四条第三項は、資産の「評価額」についてこれを規則に委任していることは明らかである。ところが右条項は「評価額」を定めることなく「時価」を定めているのである。そうであれば右条項は法に依拠しないで課税標準の計算に関しその基礎となる重要な事項を定めたものであつて当然無効の規定といわなければならない。

(4)  また前記施行規則第三六条は「当分の間……」と規定しているので、これは明らかに限時法である。従つて制定後すでに一四、五年を経過した一九六五年の本件処分時にはその効力を失つたものである。

従つて、被告等が右法規を適用してなした本件各処分は違法である。

第二、所得税法及び同法施行規則が有効である場合。

(1)  被告等は一九五一年四月一日以前に取得した資産でも、一九六一年以前の譲渡所得に対しては何等課税せず、一九六二年以降のそれに対して課税している。これは租税の公平の原則に反するものであるから被告等の本件処分はすべて違法である。

(2)  もしも以上の主張がすべて認められないとすれば、被告等がなした本件課税標準の計算は、すべて恣意によるものである。すなわち、被告等が算定した本件各土地の一九五一年四月一日における「時価」は、近隣地の評価時期における売買実例を参考にして定めたというのであるが、その様な実例がありうる筈はなく、かりにあつたとしても、それは飽くまでも近隣地の時価であつて、本件土地の「時価」ではない。従つて被告等が算定した右「時価」は、全く被告等の忽意によるものであつて、それをもとにして計算された本件譲渡所得の課税標準及びその税額はすべて違法である。

よつて、被告等がなした本件各処分は取消しを免れない。

(証拠関係)<省略>

理由

第一、争いがない事実。

(1)  一九六二年度所得税について

原告は、一九六二年五月、被告那覇税務署長に対し、原告の一九六二年度における総所得金額は金三、八三四ドル三一セントである旨の確定申告をした。ところが同被告は一九六五年五月一五日原告の右所得金額を金八、〇八三ドル六〇セント、これに対する税額を金二、二六一ドルとする旨更正決定をした。そこで原告は、一九六五年六月一四日同被告に対し、右更正決定に対する再調査請求をしたところ、右請求は所謂「みなし審査請求」に移行され、被告主税局長は、一九六六年一月四日右審査請求を棄却する旨決定した。しかしながら同被告は、その後において同年七月一日右決定を取消したうえ、被告那覇税務署長がなした前記更正決定を取消し、自ら原告の総所得金額を金六、六一九ドル三〇セント、これに対する税額を金二、三九九ドル五〇セントとする旨決定し、右通知は同日原告に到達した。

(2)  一九六四年度所得税について、

原告は、一九六四年五月那覇税務署長に対し原告の一九六四年度における総所得金額は金五、四一〇ドルである旨確定申告をした。ところが同被告は、一九六五年六月一二日原告の右所得金額を金五、七四八ドル七三セント、これに対する税額を金一、五〇九ドル七〇セントとする旨更正決定した。そこで原告は一九六五年七月七日同被告に対し、右更正決定に対する再調査請求をしたところ、同被告は同年一〇月六日右請求を棄却する旨決定した。これに対し原告は同年一一月七日被告主税局長に審査請求をなしたところ、同被告も一九六六年一月四日右請求を棄却する旨決定し、その通知は同月七日原告に到達した。

第二、所得税法第一四条第二項、第三項及び同法施行規則第三六条の有効性

一 原告訴訟代理人は、頭書の各条項は所謂租税法律主義に反して当初より無効であるが、そうでないとしてもその後に効力を失つたものであるから、右条項を適用してなした被告等の本件処分は、いずれも違法であると主張するので判断する。

布告第一三号「琉球政府の設立」第三条が一般租税の賦課、徴収は立法によらなければならない旨を規定し、所謂租税法律主義の原則を明らかにしていること、所得税法第八条第一項第八号が「資産の譲渡に因る所得は、その年度中の総収入金額から当該資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除した全額。」を課税標準とする旨を規定していること及び同法第一四条第二項で「第八条第一項第八号に規定していること及び同法第一四条第二項で「第八条第一項第八号に規定する資産で評価されたとみなされたものについては第八条第一項第八号に規定する取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費は当該資産の評価額と評価時期以後に支出した設備費、改良費及び譲渡に関する経費との合算額とする。」旨規定して、評価時期に評価されたとみなされたものについては、同法第八条第一項第八号に規定する「取得価額」によらず「評価額」によるべき旨を定め、同条第三項で「前二項に規定する資産の評価等については規則でこれを定める。」と規定していること及びこれを受けて、同法施行規則第三六条は、「法第一四条第三項に規定する評価については当分の間一九五一年四月一日における時価によるものとする。」と規定していることは所論のとおりである。

してみると、所得税法は第八条第一項第八号に規定する資産の譲渡所得について、原則的には「その年度中の総収入金額から当該資産の取得価額、設備費、改良費及び譲渡に関する経費を控除した金額。」を課税標準とする旨規定し、ただ戦前に取得した資産及び戦後まだ社会の諸秩序が回復されない間に取得した資産については諸種の理由なかんずく公簿の滅失、貨幣価値の急落等によつて生ずる名目的所得に対し右原則を適用することは納税義務者に著しく不利益を与えることとなるので、このような不合理を排し、出来るだけ実質的所得に対して課税するための例外として同法第一四条二項を設け、第一項の山林同様、一九五一年四月一日を評価時期と定め、それ以前に取得した資産に対しては、右評価時期において適正に評価されることをあらかじめ予定し、それを前提として「その年度中の総収入金額から評価時期における評価額と、同日以後に支出した管理費、その他の必要経費の額との合算額を控除した金額。」をもつて課税標準とする旨定めていると解される。従つて、同条三項がこの趣旨を受けて、評価時期における評価の方法を規則に委任し、同法施行規則第三六条が法の委任にもとづいて「……評価については当分の間一九五一年四月一日における時価による。」旨規定し、法が当初より予定している適正な価額つまり資産の譲渡に因つて生じた実質的利益を計算するのに最も妥当と思われる評価の方法を、より明確に定めたものであつて、右の各法条は何ら租税法律主義に反するものではない。

二 また、右施行規則第三六条に定める「時価」とは、客観的に見た財産の交換価値を指すものであることは、所得税法が飽くまでも実質的所得に対して課税する趣旨であることから十分うかがえるところであるから、同条の内容が不明確であるとはいえないし、その他所得税法第一四条第二項、第三項及び同法施行規則第三六条を無効とする理由は何ら見当らないので、原告の主張はすべて採用しない。

第三、本件各処分の正当性

まず、本件課税の対象となつた那覇市字安里神無良川一七六番宅地三二九坪及び同市若狭町二丁目六五番の一宅地三九坪二合四勺の各土地は、原告が一九五一年四月一日(評価時期)以前に取得した資産であることも当事者間に争いがないから、その譲渡所得に対する課税標準の計算は、所得税法第八条第一項第八号、同法第一四条第二項、第三項及び同法施行規則第三六条によるべきである。すなわち、その年度中の総収入金額から当該資産の一九五一年四月一日における時価と評価時期以後に支出した設備費、改良費及び譲渡に関する経費の額との合算額を控除した金額が課税標準となる。

これを原告の各年度における譲渡所得について審究することとする。

(1)  一九六二年度分所得税について

原告が同年度中に那覇市字安里神無良川一七六番宅地三二九坪を坪当り金二三ドル、合計金七、五六七ドルで他に売却譲渡し、同額の収入があつたこと及び原告が右譲渡に関し、金五二ドル二セントの経費を支出したことは当事者間に争いがなく、評価時期以後に支出した設備費、改良費については、原告は主張しない。

そこで、右土地の一九五一年四月一日における時価について見ると、被告等は、その算定方法は近隣地の一九五一年四月一日における売買実例を参考にして坪当り金五ドルを相当とし、これを総坪数に乗じて金一、六四五ドルとしたと主張して<証拠省略>を提出し、証人金城フミの尋問を求めたのに反し、原告はその時価が被告等の右算定額以上のものであるとする反対事実を何一つ主張立証しない。

また被告等提出の各証拠を検討してみても、被告等の右算定額は未だこれを不当として排斥しなければならない程に著しく低廉な価額とみることもできないので、結局右土地の一九五一年四月一日における時価は前記のとおり坪当り金五ドルをもつて相当と認めるほかはない。

そうだとすれば、原告の右土地譲渡に因る利益は、被告等主張の金五、八六九ドル九八セントとなること明らかであり、これより所得税法第八条第一項所定の金三〇〇ドルを控除した金五、五六九ドル九八セントの十分の五に相当する金額金二、七八四ドル九九セントが原告の譲渡所得金額となることもこれまた明らかである。

ところで、原告は同年度分所得税の申告に際し、右土地の譲渡所得金二、七八四ドル九九セントを、その総収入金額に計上しなかつたことは原告自ら認めるところであるから、前記のとおり、被告主税局長が被告那覇税務署長のなした更正決定中、本件譲渡所得金額を原告の総収入金額に加算したことを正当として、一九六六年七月一日さきになした審査請求棄却決定を取消して右更正決定を取消し、自ら原告の総収入金額を金六、六一九ドル三〇セント、これに対する税額を金二、三九九ドル五〇セントとする旨の決定をなしたことは正当である。(原告は被告那覇税務署長がなした更正決定の取消しをも求めるが、同決定は被告主税局長の取消決定によつてすでに消滅しているので、訴訟上その取消しを求める利益がないことは明らかである。)

(2)  一九六四年度分所得税について、

原告が同年度中に那覇市若狭町二丁目六五番の一宅地三九坪二合四勺を他に売却譲渡したことは当事者間に争いがなく、ただ譲渡価額に争いがあるのでこの点について判断する。<証拠省略>

によれば、右土地の近隣に所在すると思われる那覇市若狭町二丁目四七番の五の土地の一九六二、三年頃の時価は坪当り金七五ドルであつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。そうして、被告等が右近隣地の時価より相当に低い坪当り金五〇ドルをもつて、本件土地の一九六二年中における時価と認定したと主張している以上、原告はそれが被告等主張の価額より、もつと低額であつたことを主張、立証すべきであり、原告がこれらの事実を主張、立証しない本件では、被告等が認定した坪当り金五〇ドルをもつて、右土地の一九六二年当時の時価と見るのが相当である。

つぎは、右土地の一九五一年四月一日における時価を検討してみる。<証拠省略>によれば、右土地の近隣に所在すると認められる那覇市若狭町二丁目一四番の三の土地一九五一年夏頃の時価は、坪当り金九ドル位であつたことが認められ、右認定に反する証拠はない。してみると、本件土地も特段の事由がないかぎり、ほぼこれと同価額だと認めても強ち不当ではない。しかしながら、被告等は却つて、区画整理による三割減歩を考慮に入れて、これより遙かに高い坪当り金二四ドルをもつて、本件土地の一九五一年四月一日における時価であると認定しているのである。従つて、原告が右土地は、それ以上の時価を有するものであつたことを主張、立証しない以上、被告等主張の坪当り金二四ドルをもつて、右土地の一九五一年四月一日における時価であると認めざるを得ないのである。

また、被告等は右土地の譲渡に関する経費は、金四四ドル四八セントであつたと主張するのに対し、原告はこれを明らかに争わず、かつこの土地の評価時期以後に支出した設備費、改良費等については主張、立証をなさない。

そうだとすると、原告の右土地譲渡による利益は、被告等主張の金九七五ドル七六セントとなること明らかでありこれより所得税法第八条第一項所定の金三〇〇ドルを控除した金六七五ドル七六セントの十分の五に相当する金額、金三三七ドル八八セントが原告の本件譲渡所得金額となることもこれまた明らかである。

ところで、原告は同年度分所得税の申告に際し、右土地の譲渡金額金三三七ドル八八セントをその総収入金額中に計上してなかつたことは、原告自ら認めるところであるから、被告那覇税務署長が、同年度中の原告の総収入金額に右譲渡所得を加算して、これを金五、七四八ドル七三セント、これに対する税額を金一、五〇九ドル七〇セントとする旨の前記更正決定及びこれを不服としてなした、原告の再調査請求を棄却した前記決定、更に被告主税局長がなした原告の審査請求棄却決定はすべて正当といわなければならない。

以上のとおり被告等の本件処分は、いずれも違法のかどはなく、またこれが原告主張のように公平の原則に反するものでもないから、原告の主張はすべて理由がない。

よつて、原告の被告等に対する本訴請求は、すべて失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民事訴訟法第八九条、行政事件訴訟特例法第一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 真栄田哲 喜屋武長芳 中村透)

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